4人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
この状況…店長もいっぱいいっぱいで手が放せない。
雪さんも他のお客さんの対応をしていて、私は一方的に怒鳴られ続けるこの状況…最悪だった。
堪えきれずに涙を流す私に、お客さんは尚も暴言を吐き続ける。
「泣けば済むと思ってんのかガキが!!」
そんな時、ふと背後から誰かにおしぼりを渡され、促されるまま更衣室へ誘導された。
「申し訳ないです」
彼だった。
彼は低い姿勢で何度も頭を下げ、お客さんをこれ以上激昂させないように謝り続けた。
「この店の教育はどうなってるんだ!!店長出せって!!」
「当店の教育系はわたくしですので、わたくしが店長代理で参りました。本当に申し訳ございません」
扉越しに聞こえるお客さんの怒声と、それに不釣り合いな彼の落ち着いた声。
私は渡されたおしぼりで涙を拭いながら耳を傾けていた。
「御注文は御伺いしました順番に御用意致しますので、もう少々御待ち頂けますか?」
「だから早く持って来いってのがわからんのか!!」
「すぐに」
彼の手際の良さは完璧だった。
自分の仕事を一旦置いて、相手がどんなに理不尽に怒鳴っても丁寧で落ち着いた言葉遣いで、颯爽と用意してすぐに去る。
あまりの凄さに感服する。
そして最後に、彼はこう続けた。
「あの娘は優秀な娘ですから…」
その声は、落ち着いていながらも殺気に満ちていたのが、扉越しでも伝わった。
最初のコメントを投稿しよう!