気付いてしまった、私

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声だけでわかる二人の感情は、雪さんは短気になって焦りを隠せずに若干イライラしてる様子、それに対して彼は少し言い難そうに困った様子。 雪さんは何をそんなに焦ってるのだろうか、徐々に口調が強くなる雪さんに対し、彼は観念したかのように漸く一言だけ言葉を吐いた。 「待ってる娘ならおる…」 「待ってる…誰を?」 「ごめん、仕事戻らな」 それだけ言って彼は逃げるように扉を開いてその場を去り、私は咄嗟に扉の陰に隠れた。 反動で扉が戻ってきた時、隠れていた私は中に残っていた雪さんと思わず目が合ってしまい、見つかってしまう。 「聞いてた?」 「ごめんなさい…」 雪さんはバツが悪そうに…だけど、聞かれたのなら仕方ないと言わんばかりに、私にだけ説明してくれた。 実は雪さんには、海外留学で遠距離恋愛をしている恋人がいるらしい。 彼もその事は当然知っているけど、不誠実と自覚しながらも雪さんは彼の事が気になり始めていた。 いつも優しい彼が自分に気があるんじゃないかと最初は思ってたみたいだけど、新人が入ってくる度に誰にでも優しく接する彼を見ていて、それが勘違いだと後に気づく。 そして同時に、いつの間にか雪さん自身が彼の事を気になり始めていたらしい。 私はまた胸が苦しくなった。
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