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ただの雑談から深刻な相談、恋バナ、そんな中で彼が自分に気があるんじゃないかと得意げに語る痛い娘もいた。
それが耳に入る度に思った。
彼が優しく接してくれるのは自分だけじゃない、私は絶対に勘違いしてはいけない、と。
この日私はいつもより早く店に着いてしまい、仕方ないので少し更衣室で休む事にした。
暫く寛いで過ごしていると、隣からほんの微かに人の気配を感じ、誰かが同じように休んでいる事に気付く。
もし誰かが仮眠でもしていたら邪魔をしてはいけないと思い、極力静かにしていると、向こうも私の存在に気付いたのか、あからさまな寝起き声で声を掛けてきた。
「姫?もうそんな時間…?」
彼だった。
「いや、ちょっと早く来過ぎちゃったから少し休んでた」
今までは私が出勤してくると彼は必ず先に仕事を始めていたから、こんなにも気の抜けた彼の声は初めて聞いた。
そしてそのまま私達は、壁越しに世間話を続けた。
「最近どう?」
「うん、毎日頑張ってるよ」
雨が降っていない日に、こんなにゆっくりと彼と会話が出来たのも初めてだった。
壁越しとは言え彼と背中合わせで、こんな時間がずっと長く続けばいいと思った。
「ねぇ風見君…」
「ん?」
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