新しいXXX。

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 ** ――そういえば、サキちゃんには教えたことなかったなぁ。……私が“魔女”だってこと。まあ、教えても信じなかったかも。サキちゃんはあー見えてリアリストだったし。  まだ肌寒い季節。誰も彼もがコートを着込んで、体を丸めながら道を歩いている。駅前のベンチで、私は大きくため息をついていた。理由は簡単だ。――社会人になって以来、すっかりテレビや雑誌を熟読する時間もなくなってしまった私は、かつてのように必死で流行を追いかけられなくなってしまったのである。  このグレーのコートはもう流行遅れだろう。去年はこのブランドのグレーは滅茶苦茶流行っていたのに、今年はもう誰も着ていない。会社の同僚の女の子が着ていたのを見て、コレが今年の流行なんですよぉ!と教えてもらったのはつい昨日のことように思い出せるというのに。 ――駄目だなぁ。ほんと、人が着てるのとか見てやっと流行に気づくんだもんなぁ。仕事忙しいからってこらじゃ女子としてダメだよねぇ。三十路になる前に結婚したいなら尚更だよー……。  さっき大急ぎで買ってきた最新のファッション雑誌。それを見ながら私は――すぐ近くに立っていた、待ち合わせをしている様子のOLの方をちらりと見た。  すらりと背が高い彼女は、見事に腰は括れていて胸は出ている。モデル体型の彼女にぴったりと合うのは、臙脂色の裾の長いコートだ。ひらひらとあちこちベルトがついているデザイン、間違いない。雑誌で紹介されているキアニス社の最新モデルだ。今、一番流行している“新しい”コートである。 ――いいなあ。欲しいなあ。……新しいコート、欲しいなあ。  自分も新しいコートが、着たい。
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