復章

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 * (古書『紅鷹君伝(こうようくんでん)』の著者について明らかになっている事実は、あまり多くない。  その物語の舞台とほぼ同時代に美浜国(みはまのくに)で生きていたこと、しかし作品が世に出たのは死後であったこと。無名の役人の娘であり、有力な将軍の妻であったこと。  それ以外は、名前にしても生い立ちにしても、本人の記述でしか知りようがない。物語の中に描かれた自画像を、ありのままの姿と見なすのはさすがに無理があるだろう。何しろ、人並み以上にたくましい想像力を持つ人物であったのは間違いないのだ。故意か否かはともかく、自らについて語る言葉にも、虚構が紛れこんでいる可能性は否定できない。  たとえば、彼女の出自に山峡国が深く関わっていると匂わせるような逸話がある。無論、隣国同士である以上は、まったくありえない話ではないかもしれない。とは言えおそらくは、自ら物語の主人公に選んだ人物──高名なる深山の姫君──に心を寄せるあまりの脚色、あるいは妄想の類であろうというのが定説となっている。)  *
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