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──しかし安心するがいい。おまえが調べ上げたことは、真実だ。事故の直後、ユウは私の前で、血も吐かんばかりに取り乱しながら、長い長い時をかけて一部始終を報告してくれた。その内容と今の話、寸分の違いもない。助けられた子の名が明かされぬのは、その子が責めを負っては不憫ゆえ、一切の他言を禁じたからだ。記録にも残していない。
──それでは……母上はまこと、他人の子を助けて……。
──無謀と言ったな、アルハ。確かにそうかもしれん。しかし母上にとって、無謀と深謀遠慮とは常に表裏一体だった。仮にその行いを過ちと言う者があっても、ご本人すらそうお思いだったとしても、私はあのかたが過ったとは微塵も思わん。マツバさまは、為すべきことを為された。私はそう信じている。
いつしか笑いは消えていた。そんな父の顔をまっすぐに見て、娘は何も言わなかった。
皆がその日のことを詳しく話したがらない理由を、悟ってくれただろうか。十余年が過ぎても乾かない傷が、この世にはあるのだということを。
やがてアルハは静かに居住まいを正すと、おもむろに話を元へ戻した。
──父上。わたくしが城主となった暁には、ムカワ城代を補佐としてこの城に残していただけましょうか。
──私もそれを考えていた。この後、当人に頼むつもりだ。おまえが望んでいると言えば、断りはすまい。
──それならば、心強うございます。
──しかし城代は随分と長いこと、退役の日を先延ばしにしてきた。それは知っているな?
──はい。早う一人前の城主となり、ご本意を叶えて差し上げられるよう、精進いたします。
アルハは両手を前にそろえ、芯の通った美しい所作で頭を垂れた……。
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