第10章 立つ鳥

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 ムカワとの会談を終えたアモイは階段を下り、娘たちのいる庭のほうへ足を向けた。今日のうちに都へ戻り、明日にも宮臣たちに城主登用の件を諮るつもりだ。帰る前にもう一度、娘の顔を見ておこうと思った。 「偉大な親を持つというのは、厄介なものだ。そう思わぬか、シュロ?」  行く先から聞こえる声に、思わず足が止まる。 「そうですか? 私は普通に、誇らしく思いますが。父の名に恥じぬ武人になるのが、子どものころからの夢ですから」 「しかしその父の実像を、そなたは知るまい」 「生まれる前に亡くなりましたからね」 「人から聞く亡き人の話は、多分に美化されるものだ。追ったところで、追いつくことなど永遠にできぬ」 「アルハさま。急にどうなさいました」  これはユウの声だ。 「お父上に何を言われたのか存じませんが、アルハさまはアルハさまですよ。母上のように生きなければならないなんて、そんなことはありませんからね」 「わかっている、ユウ。父上に不服があるわけではないのだ」  柱の陰からそっとうかがえば、少年と少女たち、女師匠の四人が縁側に座っているのが見える。落ち着きのない東原城主は、どこかへ遊びに行ったようだ。
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