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「母のこと、聞けば聞くほど、いかなるお人であったかとんとつかめぬ。それがどうにも、もどかしくてな」
アルハは両手を組んで腕を上げ、しなやかに伸びをする。その横顔に何か言おうとして、ユウが口を開く。
そこでアルハが「あっ」と声をあげ、跳ねるように立ち上がった。周りが何事か問う前に走りだすと、松の木立の中ほどまで行って振り返る。子どもらしく無邪気な表情で、右手をまっすぐに空へ向け、息を弾ませて。
「シュロ! ルカ! 見よ」
指の先の上空には、真一文字に翼を広げた大きな鳥影が旋回している。
「あの鷹、牡か牝か。どちらだと思う?」
彼らにとっては、ありふれた戯れなのだろうか。シュロとルカは慣れきった様子で、牡ですかね、いいえ牝でしょうなどと笑い合っている。
傍らでユウが、にわかに顔を伏せた。細い背中が小刻みに、やがて大きく震えだす。
その姿が不意ににじんで、アモイはようやく、自分の頬も熱く濡れているのに気づいた。
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