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と、男の背が急に低くなった。ユウの立つ岩の端に、ひょいと腰かけたのだった。
「油を売っていたのさ。他に売るものがないからな」
そう言って下から見上げる笑顔は、やはり誰かに似ているように思えた。
「商人なの?」
「前はな。うまく行かなくて、東のほうから夜逃げしてきたのさ」
「夜逃げ……」
「この顔は商売には向かないみたいでな」
というのは、頬の古傷のことを指しているのだろう。頷いていいのかどうか、判断に困る。
「それ、見てもいいか?」
男は手を差し出した。ユウは少しためらいながらも、素直に木笛を渡した。
大きな手のひらだった。指も長く、ユウが押さえるのに苦労している穴をやすやすと塞いでみせる。そして彼が吹き口に唇をあてがうと、いきなり、清澄な低音が流れ出た。イセホでさえ要領をつかむのに幾度か練習を必要としたのに、この男はいとも簡単に、ひととおりの音階を吹きこなしてみせたのだ。
思わず男の傍らにしゃがみこんで、その指使いに見入る。音はやがて、探りながら、聞いたことのある旋律に移ろっていく。燕のうた──まさにユウが目指しているところの流暢で弾むような調べが、川のせせらぎと混じり合う。
「あんた、本当に商人?」
男が吹くのを中断したところで、ユウは尋ねた。
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