第1章 古巣

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 とは言え、古巣である西陵の府が相変わらず活気に満ちているというのはありがたいことだ。前城主が八年をかけて豊かにしたものを、代替わりと同時に廃らせてしまったのでは、申し訳が立たない。それもこれも、城の仲間たちがしかと留守を固めてくれているおかげだ。  城に戻ったアモイが最初にしたことは、一人ひとりの将官に声をかけ、その感謝の気持ちを伝えることだった。  中には新しく登用したとおぼしき若人の姿も交じっているが、ほとんどは懐かしい顔ぶれだ。タカス・ルイの精悍な姿もある。テシカガ・シウロの色白な細面もある。相変わらず季節感のない苔色の長衣をまとっているのは、城代のムカワ・フモン。かつては取っつきにくい印象ばかりが際立っていたが、こうして久々に会ってみれば、やはり身内だという心地がする。  この城に仕える者は皆、自分と同じ主君に忠誠を誓った同志だ。前城主──今は妻と呼ばなければならない立場ではあるが──マツバ姫の下に集い合った仲間だからこその連帯。この感覚は、王宮にいてはとても味わえない。  もっとも、都の人事も以前とは様変わりした。隠居同然だった国老イノウ・レキシュウを復職させて宮臣たちの監督を任せ、軍の編成を大幅に見直しもした。先王の妃であったテイネの御方(おんかた)に取り入って地位を得たような輩は一掃し、骨のありそうな人材の登用を進めたつもりだ。  ただ残念ながら、人手はまったく足りていない。先の戦から長い時が経ち、経験の豊かな将の多くは第一線を退いている。才気ある若手を育てるには、時間が必要だ。腐敗の温床になっていた中堅層が抜けてしまったことで、人数的にかなりの打撃を受けたのは否めない。 ──致しかたあるまい。量と質のいずれを保つべきかと問えば、答えは知れている。  マツバ姫はそう言って支持してくれたが、この荒療治が吉凶いずれに帰するかは、まだ予断を許さなかった。
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