第3章 隠密

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 アモイはそう言ってマツバ姫を、次いでテシカガの顔を見る。年上の部下はほっとした様子で、何度も頷いた。 「改めてお訊きしましょう。一体、何のために、このようなところまでおいでになったのです」 「話があるなら(ふみ)でも送ればよい、と言いたげな顔をしているな。だが、そうもいかぬ事情が生じたのだ」 「事情?」 「これを見よ」  マツバ姫は懐から、折り畳んだ紙を取り出す。受け取って開くと、何やら見覚えのある図が姿を現した。先ほどまで作戦室で眺めていた、四関(しのせき)から襲堰(かさねぜき)までの間の布陣図を簡略化したものだった。 「そなたの描いたものに相違ないか」 「ええ。ここに着いてすぐ、私が甥御どのに書き送ったものです。この布陣に、何かお気になる点でも」 「問題は内容ではない」 「と、言われますと……」 「こちらはどうだ」  次に差し出されたのは、宛名も差出人も記されていない、ごく平凡な白い封筒だった。それもまた、自分が密書を封入して使者に託したもののようだ。 「封字の字形が、いつもと少し違うように見える。また墨の濃さも、若干薄いようだと」 「封字、ですか」 「わたしには、違いというほどの違いにも見えなんだが、フモンがそう申すのでな」     
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