ある薬

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「ふ、ふ…副作用は?」 男は恐る恐る聞き返す。 「ありません」 博士の答えは、皆の期待するものだったが、「ありえない」と口にする者も居た。 先程から質問を繰り返す男もその内の1人だった。 「そんなに信じないのであれば。どれ、さっきから熱心に質問してくれる彼… 彼にコレをあげよう。」 博士はそう言うと壇上から立ち上がり、質問を繰り返す男の前来て「飲んでみなさい」と促した。 会場中のカメラが男を収める。 この会見は全世界一斉生放送だ。 男は重々そのことを承知している。それに男は根っからの負けず嫌いだった。 ここで薬を飲まなければ、全世界が私のことを腰抜けと呼ぶだろうと頭をよぎった。 男は意を決して薬を飲んだ。 ゴクン。 水もなしに飲んだそれは喉にへばりつく感触を与えながらも男の食道を通り胃へ達する。 「の、飲みましたよ」 男は勝ち誇った様に博士を見て、手近なカメラに口をアーッと開けて薬が口内に無いことを確認させた。 「至って変化はありませんね。」 男は薬が到達したであろう、胃の辺りをさすってみせた。 「コレからですよ。薬というのは胃で消化され、腸がその成分を吸収し、血液へと流れて初めて作用するのですから。」 「幸い、今日は沢山のカメラがある。よろしければ皆さん、今日は徹夜して彼を観察致しませんか?」 「彼は今と変わらぬまま明日の朝を迎えるでしょう。」 博士の提案によりその日、一日中彼をカメラで撮り続け会場中、いや、テレビを見ている視聴者の多くも片時も薬を服用した男から目を離さなかった。 それからキッカリ24時間が経過した。 「凄い!本当に疲れ知らずだ!」 男は、徹夜したとは思えない程の興奮で喜びを表現した。 「博士、貴方を疑ってすいませんでした。」 男はこれまでの態度を一変させ平謝りになる。 「ところで、これほどのお薬…おいくらなのでしょう?」 男は素直な疑問を投げかけた。 「無料ですよ。それも、全員です。」 「ぜ、全員と言うと?」 「全世界の全人類ということです。私はこの薬で革命を起こす。」 博士は言い切った。 すると、同じく徹夜したカメラマンや記者たちはクマを作りながら世紀の発明だ!と口を揃えて言い拍手喝采の嵐となった。
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