救援物資で息継ぎ

2/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 紙を拳ごとぐしゃぐしゃに握り固め、床に打ち付けるようにして捨てる。自由になった手でコートを掴み、財布だけポケットに突っ込んで玄関に向かった。もう一度だけ近くのアパレルショップに最新の洋服ラインナップを見に行こう。アイデアの取っ掛かりになるものがあるとしたら、もうそこぐらいしかない。  出だしから挫けて「そんな道を選ぶから」と母に嗤われるのだけは嫌だ! 「うわっ」  アパートの共用廊下に続くドアを力任せに開け放った瞬間、すぐ向こうに立っていた誰かが声を上げた!  一瞬、本当に泥棒が来たのかと思ったが、配達員だった。まさにインターホンを押そうとしていたところだったらしく、「お、お届け物です」と苦笑気味に伝票を差し出してくる。私もつられてごまかし笑いを浮かべ、印鑑を押すのと引き換えに段ボール1箱を受け取った。  何かを頼んだ覚えはないが、こんな物を抱えていては外出できない。一旦引き返して送り主の情報を見ると、実家の住所が書かれていた。平 直美(ひら なおみ)という人から、私への贈り物―――そんな風に無理にでも距離を空けてからでないと受け止めきれなかった。ただでさえ最悪な気分のところに追い討ちをかけてくるなんて、さすがは我が母。 「救援物資…?」  伝票の品名欄にあった言葉だ。1人暮らしでさぞかし苦労しているはずと思って、食べ物でも送りつけてきたのだろうか。余計なお世話だ。いつ、誰が助けなんて求めた? 私のことなんて、「もう知らない」んじゃなかったのか。  頭に血が上っているせいか、顔が妙に火照る。暑くてコートを着ていられず、乱暴に脱ぎ捨てた。服に八つ当たりするなんて最低だ。こんなささくれた気持ちでいるから、良いアイデアが浮かばないんじゃないか。  溢れた涙がぼろぼろ、伝票の上に落ちる。母からの救援物資に頼るのはごめんだが、食べ物だったら腐るといけない。とりあえず取り出して、譲れる物なら服部さんにあげよう。彼女も1人暮らしだから。  ごし、と両目を擦った手でガムテープを引き剥がす。つい荒っぽい動きをしそうな手を戒めて蓋を開くと、緩衝材の上に置かれている走り書きのメモに出会した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!