一人と一匹(1)

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「そんな犬が怒ったって……、う! 次はちゃんと話聞いてもらうからな!」  ちょっと牙を見せてやったら尻込みして逃げていくとはね。そんな根性じゃ雌を射止めたり出来ないぞ。もっと気合見せろよ。  そりゃ後ろ脚で立ち上がったら、前脚が肩に掛かるくらい体格差が有るからな。牙も爪もなけりゃ、魔法も使えないんじゃ縮み上がっても仕方ないか。 「ありがと、キグノ。でも、もうちょっと早く助けてくれたっていいじゃない」  そう言うなよ、相棒。俺が全部邪魔してたら、お前は嫁に行く先が無くなるぞ。こんな小さな村なんだからよ、選べる雄なんてたかだか知れてるだろ? もう十六にもなるんだから、適当に見繕って唾つけといたほうが良いんじゃないか? 「いっつものんびり眺めていて、なかなか来てくれないんだもん」  お前だってなかなか俺の気遣いに気付いてくれないじゃないか? そりゃ、どうせ何言ったところでグルグル唸っているようにしか聞こえないんだろうがな。  俺はお前の言ってる事は解ってるんだぜ、リーエ。でも、お前は人語しか分からないんだから仕方ないっちゃ仕方ないだろうがよ。 「ん? なーに?」  ほら見ろ。 「そんなに喉を鳴らせて、わたしが好きなの? わたしも大好きよ」  こんなもんだ、犬と人間の関係なんて。     
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