一人と一匹(2)

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 修行を積んで独り立ちしたと同時くらいにクレアヴェスと結婚してリーエが産まれた訳だが、すぐに母親が逝っちまったもんだから大変だ。親父さんはまだちっちゃいリーエを連れて旅暮らしをしなくちゃならなくなった。俺と出会ったのもその頃の話だ。  幸い、シェラードはかなり能力の高い『倉庫持ち』だったし、安くなった反転リングって魔法具のお陰もあって、小さな馬車でも交易商人はやっていける時代になってた。修行時代に作った伝手もあって取引は順調だったし、親父さんは剣もそこそこ使えて護衛も要らないってんで、当分は二人と一匹でのんびりと旅暮らしをしていたのさ。  事情が変わったのは、相棒が八歳になった頃。水系の魔法の能力に目覚めちまった。当時は軽く考えていて、ちょっと使えりゃ便利くらいな思いでスリッツやザウバ滞在時に魔法講師のとこに通ってたんだが、治癒(キュア)の適性が恐ろしく高かったようで本格的な修行を勧められた。  でもな、リーエにしてみりゃ親父さんと二人だけの頼りない暮らし。一人修行に出るのは嫌だったんだろ? 高望みはせずに独学で行けるとこで十分だって言ったのさ。  シェラードもそれで良いって思って、羽振りは悪くないもんだから高価な魔法教本をたんまりと買い与えるだけに済ませてた。  ところが相棒の才能はそれで許しちゃくれなかった。十歳になる頃にゃ、ちょっとした治癒魔法士に育っちまってたんだ。     
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