仔犬キグノ(1)

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仔犬キグノ(1)

 相棒が寝る準備に入ったみたいだから俺ものっそりと立ち上がる。 「どこ行くの? おしっこ?」  そうだよ。小便だよ。お前、家ん中でしたらこっぴどく叱ったじゃないか。本当なら俺の生活空間なんだから匂い付けしときたいんだぜ? 仕方ないから裏の菜園の隅でしてるだろ?  こいつは内緒だが、家の外の四隅には時々ちょっぴりだけ掛けて回ってる。縄張りはきっちり主張しとかないとろくでもないの入ってくるかもしれないからな。 「今夜はどこで寝るの? 扉開けとく?」  リーエが寝室から顔を覗かせてるから、鼻先で押して閉めてやった。これは居間の床で寝るから心配すんなって合図だ。  こうしておきゃ相棒は納得してベッドに入る。ここからは俺の時間だぜ。  闇犬(ナイトドッグ)っていうくらいだから夜闇は俺の領域だ。ステインガルドはかなり北のほうに有るから、夜になっても生ぬるい空気に満ちてる。そいつを縫って村の中を小走りで駆ける。  田舎の村なんで、大概の人間はさっさと寝ちまってる。騒いでんのは酒場にたむろしてる親父どもくらいのもんだ。無視して柵の外まで俺は出ていく。     
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