ネックレス

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私は呆然とした。 だって、さっき安物って……。実はすごく高いものだった? 頭の整理が付かなかった。 そうしている間も彼女は、さっきまでとは別人のように取り乱していた。 緩やかな川の流れ。汚く濁っているだけなのできっと流れていってはいないはず。 諦める様子を見せない波音さんに、私は何か誤解しているような気がしてきた。彼女はもっと下流に行ってしまったと思ったのか、どんどん下っていく。いけない、あっちの方は水草が多くなる。 私はスマホを取り出して沖島家に電話を掛けた。こんな時が来るとは思っていなかったが、番号を入れておいてよかった。 『はーい、沖島です~』 普段よりちょっとよそ行きの声でおばさんが出た。ピアノの音も聞こえる。 「あ、あのっ、瑞樹です!」 『どうしたの?』 私の声の焦りに気付いたのか、おばさんは驚いた声を返してきた。 「あのっ、波音さんが川に飛び込んじゃって」 『えええぇっ! 波音ちゃんが川に飛び込んだ!?』 私の言い方はちょっと卑怯だったかもしれない。原因を作ったのは私だ。でもとにかく早く緊急事態を伝えなければならないと思ったのだ。お叱りは後でいくらでも聞く。 途端にピアノの音が途切れた。向こうの方から走ってくる音が聞こえ、「昴!」というおばさんの声を押しのけて昴くんが「もしもし!」と大声で尋ねた。切羽詰まったような声に胸がギリッと痛んだ。 『今どこ!?』 「あの、ながや川の、田沼病院とこ……」 言い終わらないうちに、ゴンと大きな音がした。多分、受話器が床に落ちた。次の瞬間ドアが閉まる音。 すぐ後に、また沖島のおばさんの「よっこいしょ」という言葉。受話器を拾い上げたようだ。 『瑞樹ちゃん? あんたは川に入ったらいかんよ』 おばさんの優しい声に、私の涙腺が崩壊した。
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