ネックレス

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普通に歩けば5分かかる道を、昴くんは1分くらいで走ってきた。 「波音!」 こちらも躊躇いなく、川に滑り下りていく。その勢いはまるで弾丸だった。こんな昴くんを見たのは初めてだった。 先ほどより下流の方は水も少し深く、私より背の高い波音さんの胸元くらいまで水位があった。 「(なん)しよーとや!」 名前を呼ばれて棒立ちになった波音さんを、昴くんは慌てて抱き上げた。問答無用で肩に担ぎ、岸へと戻る。私も急いで駆け寄った。 安全なところへ優しく下ろされると彼女はものすごく不愉快な顔をし、でも大きな目をウルウルさせながら俯いた。彼女は両足とも裸足だった。レースのフットカバーもろとも流されたようだ。 「怪我してない?」 大好きな昴くんの手が、波音さんの細長くてきれいな足を触る。胸に突き上げてきた痛みに、私は思わず目を逸らした。 やがて怪我がないことを確認して安心した彼は、ほっと息を吐いた。 「なんで川に入ったの」 小さい子を戒めるように問いただす昴くんに、波音さんはプイと顔を逸らす。 「ネックレス、落としたんだもん」 「ネッ……」 昴くんはその理由に言葉をなくす。そんなことで。そう言いかけた瞬間。 「私が!」 たまらず、割って入ってしまった。二人は大声に驚いたようで、パッと私の方を向いた。 「私が落としたと! 波音さんは嫌がってたのに、見せてってお願いして……。でも、落とすつもりとか全然なくて……ごめんなさい!」 本当にそうだった? 落とすつもりなかった? 波音さんは場所の不安があったから外したくなかったのかもしれない。なのに私はそんなことにも気付かずに独り善がりで、嫉妬に狂って。 大声で泣きまくる私の横で、「本当に?」と信じ難そうな声で言う昴くんの声。小さな声だったのに、それは私の心を抉った。これは罰だ。
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