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可愛い人
「そんなわけないでしょ」
思い切り怒った声だった。
「あたしが見せびらかしたのよ。そしたら自転車の大群がきて、瑞樹ちゃんビックリして落としちゃったのよ」
「!」
私は驚いて顔を上げた。
「なっ、なんで嘘言うと」
「本当のことでしょ。昴に誤解させたら悪いし」
ジロリと私を睨む波音さん。目力強い。私は口をパクパクさせて……でも言葉が出てこない。いや、それこそ誤解させたらいけないのはこっちのセリフ。
「昴くん、違うと! 私が……」
「いいのよ本当のこと言っても」
終わりのない「自分が悪い合戦」を繰り広げる私たちに、昴くんはキョトンとした。次の瞬間大声で笑う。
「……?」
「はいはい、分かったよ」
そして昴くんの大きな手のひらが、私と波音さんの頭をよしよしと撫でる。
「俺は二人とも信じるよ」
「何言ってんのよ。そんな矛盾……」
ムッと口をへの字に曲げた波音さんに、昴くんは優しい眼差しを向けた。それだけで彼は相手を黙らせてしまった。
「二人とも、良い子だね」
その同じ優しい目を、私にも向けてくれた。
ずるいよ昴くん。
けなしてくれなきゃ、諦められないよ。ううん、もうちゃんと分かってる。あの必死な昴くんを見れば。誰が彼に一番愛されているのか。
「それにしても、波音」
昴くんは波音さんに向き合った。真剣な様子に彼女も怯んで、顎を引いて上目遣いに見ている。怒られることを分かっている顔だ。
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