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「神谷大介さん、ですよね? はじめまして。俺、理名……高柳さんの大学の同級生で、北川健史っていいます」
背筋を伸ばして、社会人という体で挨拶をしている健史。ごく普通にみえるけれど、いつもは感じない熱を帯びている気がして、汗が一気にふきだしてくる。慌てて神谷さんをみると、不審そうに健史を一瞥したあと、ゆっくりと表情をかえた。
固い表情から、クールでどこか挑むような笑みへ。その表情にも、鼓動のペースを1段あげられてしまう。
「どうぞよろしく。……ところでどうして俺の名前を知ってるの?」
いつもの神谷さんの声とは違う。知らない男性のような、低く少し乾いた声。それがこの場の空気を重たげに震わせる。
「有名なゲーマーさん、ですよね? ネットでみました。実際にお会いすると画像や動画でみるのと、雰囲気がちがいますよね」
へえ、とつぶやき、神谷さんは口角をほんの少しだけあげた。
「格ゲーしないみたいなのに、わざわざ俺のことを調べてくれたんだ」
「ええ。高柳さんと仲がいいって聞いて興味がわいたもので」
平然とそんなことをいう健史にびっくりして、つい声が出てしまう。
「ちょ、ちょっと待って! そんなふうにいってな……」
軽く肩に手をおいて私を制すると、神谷さんが話を続けた。
「で? 俺の雰囲気、どう違うの?」
健史は相変わらず飄々としているし、神谷さんは怖いくらい淡々としている。そんなふたりの会話は異様なほど、普通に進んでいく。
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