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「邪魔してごめん。それじゃ俺、いくわ。またね」
「あ、うん……またね」
健史は神谷さんにも軽く頭をさげると、同僚たちがいるテーブルに戻っていった。一瞬しーん、と間があいたあと。神谷さんが参ったなあと苦笑した。
「……あの彼、北川くん。理名の元カレだよね? で、この店に一緒に来たのも彼でしょ」
「えっ?!」
神谷さんなら気づくかも、とは思っていたけれど、こんなふうにズバリと指摘されてしまうとなんて説明していいか言葉につまってしまう。
口をぱくぱくさせている私をみて、ごく自然な口調で、はい、ビンゴ。そういって私の額を人差し指で、ちょんとつついた。
「どうして彼と別れることになったのか、とか詳しい話はしなくていいから。……いや、よくもないけど、今は聞かないでおく。だけど……」
神谷さんはひとつ息を吐いたあと、顔を近づけて囁いた。口元には困った時に浮かぶ小さな笑み。それなのに、気持ちをぎゅっと差し込むようにまっすぐ、強くみつめられて。首筋の辺りがぞくり、と震える。
「いっとくけど俺、寛容じゃないからね。年は理名よりかなり上だけど、中身はガキだし。だけど今日は仕方ない。俺がここに来たいって言ったしね」
ため息をついて、髪の毛をかきあげる神谷さんの横顔をみつめる。
そういいながら神谷さんはやっぱり大人だとおもう。深刻な雰囲気にならないように気を遣ってくれているのがよくわかる。でもちょっと拗ねている感じも伝わってきて。甘い痛みが私の内側からせりあがってくる。
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