1324人が本棚に入れています
本棚に追加
「え? あの、その……」
さらに追い込まれてまごつく私に、神谷さんはすっと目を細め、畳み掛けてくる。
「それなら余計呼び捨てで呼んでもらわないと。あ、俺の名前を知らない、とかいわないよね?」
「……知らないわけ、ないじゃないですか。大介、ですよね」
「できるじゃん、呼び捨て」
「これは呼び捨てじゃなくて、ただの確認ですから!」
そんなことをいいあっているうちに、チンと音がしてエレベーターのドアが開いた。数人の男女が降りてきて、賑やかな会話に話が中断される。
いつもと違ってすこし意地悪な神谷さんに緊張していたから、会話が途切れたことに、どこかホッとしてエレベーターに乗りこむ。
ゆっくりドアがしまって。ふたりきりの空間になったとたん、繋いでいた手を強く引かれた。
「か、神谷さん?」
気づいたら、もう彼の腕のなかにいた。
「……だから、下の名前で呼んでっていっているのに」
掠れた声でそう耳元で囁かれて肩がピクリと揺れてしまう。大きな手のひらが私の頬を包み、顔を上に向かされて。ほんの少し苦しげに瞬く瞳に釘付けになる。
そのまま、ゆっくりと唇を塞がれた。
最初のコメントを投稿しよう!