心を揺らす人

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 それでまた、スイッチがはいってしまって、ふえー、と声がでて、涙が溢れてとまらなくなってしまった。  神谷さんは、さらに勢いを得て泣き出したわたしをみてびっくりした様で、慌てて手を離してしまった。  それがなんだかさびしいと感じている自分に、なきながら笑ってしまう。  神谷さんは心底困った顔をして、もう泣かないでよ、俺が泣かしてるみたいだし。あれ? 泣かしてんのか? ぶつぶつそういいながら、ダウンのポケットに手を突っ込んで、タオル地のハンカチを差し出してくれた。  照れ隠しにエヘヘと笑いながらすいませんと謝り、そのハンカチで涙をバンバン拭いてしまった。ついでに鼻水も。  神谷さんはそんなわたしをみて、大きく息を吐くと、あーびっくりしたと言って笑った。  しばらくしてから顔をあげる。まだ心配そうに覗きこんでいる神谷さんと目が合うと恥ずかしさが一気に襲ってきた。それを隠すように深く頭を下げる。 「いきなり泣いたりして、すいませんでした。これ洗って返しますから」 「そんなのいいから」  そういってハンカチを奪おうとするから、本当に絶対だめ! 洗います! と振り切り、無理やりバッグに拉致する。  なんだか神谷さんの一部を手にいれた気分になって、不思議な安心感に包まれた。
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