触れていたい人

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「操作の仕方、わかる?」  神谷さんの真面目な表情をみて、慌てて視線を画面に戻す。香りを感じるほど神谷さんに近づいたことなんか、これまでなかった。 「あ、はい。なんとか」  以前、同僚とゲーセンに行く前にプレイのやり方はネットで予習し実際試してみたから、簡単な動きくらいできる。たぶん。 「OK。じゃ、とりあえず1ラウンドやってみて」  そう言われ、左手でスティックを握りしめ、右手のひらを6つのボタンの上に置く。ゲームスタート!  モニターにRound1 Fight!という文字が浮き上がり、わたしの使うイケメンキャラと、対戦相手、自動操作されて動く美少女キャラが向かい合って構えた。戦闘開始だ。  イケメンが、かに歩きのようなぎこちない動きで美少女に近づいていく。わたしが操作すると、美少女にストーキングしている残念なイケメンみたいだ。カッコ悪い。 「へっぴり腰だなあ」  神谷さんもふきだした。 「し、仕方ないじゃないですか。いきますよ」  美少女のすぐ近くまで距離を縮めると、下段へのキックコマンドを入力してみる。イケメンは一応それらしき動きはしたものの、美少女にかすりもしない。  一方美少女は、わたしがもたもたしている間も容赦がない。彼女は身構えると、おそるべき俊敏さでミニスカートを翻し、ケリとパンチを一気に繰り出してきた。  かわいそうなイケメンはまともにくらって大きくのけぞる。   パワーゲージががががっと一気に減った。ちなみにパワーゲージが先に尽きたほうが、負け。格闘ゲームの勝敗はシンプルだ。
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