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わたしが操作したときは、ヘタレ以外の何者でもなかったイケメンが、いきなり変身した。
恐ろしいほどキレのいい動きで美少女に近づいていく。
「このタイミングでレバー動かす」
そういって、あまり力が入っていない軽いタッチで、わたしの掌を押して操作を促す。
それと同時にイケメンは鋭いキックをいれ、美少女が後ろに引いた。あたった。小さく呟いたら、そんなの当たり前、まだまだと笑われた。
サラウンド状態の低い声と目の前で繰り広げられる緊迫したファイト。暖かい掌。どうしていいかわからないほどの強い高揚感に包まれてしまう。
「で、距離つめて、中段にパンチ」
一方神谷さんは淡々と解説しながらわたしをアシストしてくれている。
彼の言葉と寸分たがわない動きをみせ、イケメンはさらに美少女を端においつめていく。
「はい、相手くるよ? ガードして。そうそう」
さっきのズタズタにやられていたアレはなんだったんだというくらい、美少女からの攻撃を軽やかにかわす。
「で、ここまできたら一気にいくから。まあ、これは練習しないとできないと思うけど簡単なコンボね」
そういって、全然簡単には思えないレバーとボタン操作によって、イケメンがイケメンらしい連続技を決める。
今度は美少女が吹っ飛んだ。彼女のミニスカートがヒラヒラ揺れて宙を舞う様をぼんやり目で追った。
あっという間に勝負が決まる。ただただ圧倒されてwinと表示された画面を見つめるしかできない。
いつもこんなふうに勝てたら、格闘ゲームにハマってしまうのがよくわかる。このレベルなら、ちょっと練習すれば、普通は勝てるのかもしれない。
けれど神谷さんが操作すると、すべてがスムーズで無駄がなかった。ゲームの流れ、全部が気持ちいい。それはたぶん普通じゃない。素人でもわかる。
「凄い……」
ぼおっとした頭のまま、呟いた。
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