触れていたい人

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「全然凄くないよ、これくらい」  神谷さんが、肩を揺すって笑った。彼に包まれた内側の空気も優しく揺れてなんだか胸がいっぱいになる。 「はい、じゃ、これで俺が手伝うのは終わり。もう一度ひとりでやってみて?」  わたしの手を覆っていた掌がゆっくり離されて、すごく近くにあった神谷さんの気配がすっと遠ざかった。  遮断されていたまわりの空気がながれこんできて、あたたかった空間が一気に霧散した。なぜだか胸が締め付けられてきゅっとする。  思わず振り返り、すがるような気持ちで神谷さんを見上げてしまう。それでも、目の前の人はどうした? というような穏やかな目で私を見つめてくるだけ。  ズルイ。彼の手、指先に視線をおとす。さきほどまで、あの手が重ねられていた。そう思ったら狂おしいくらいの喪失感に襲われてしまう。  ぎゅっと握りしめたら神谷さんはどうするだろう? 指も絡めて握ったら? 「高柳さーん、ぼーっとしてるけど大丈夫? 少しわかった?」  そう言われて、ようやくはっとした。慌てて笑顔を作る。
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