恋した人

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 最初にあのゲーセンで声をかけて来たのは3人。ただし、彼らと対戦をはじめると、神谷大介がいる! とまわりがざわめきだし、あっという間にゲーム台の回りを10人以上に囲まれた。そのあとは神谷さんと対戦したいと勝手に並ぶ人、写真を撮る人、もうカオスだった。  そのなかで神谷さんは淡々と何人かと対戦をしてさらっと全勝。  全く気負った様子がないのに、恐ろしく強かった。 特に、コントローラーの扱いは絶妙だった。うちの社員がプレイするのを何度もみてきたけれど、ゲーム中、あれほど肩や腕の力が抜けている人はみたことがない。  私の手の上に置かれたあのときと同じく、ふわっと左手でスティックを握り、右手のボタン操作も軽く跳ねるよう。ただ意識はかなり集中しているのがみてとれた。素人相手でも全く手を抜いていなかった。  これがトップゲーマーのプレイ。以前から映像ではみていたけれど目の前でみるのと臨場感が違う。見ているだけでドキドキした。  ファン対応も慣れていて、質問をうけたらいつもと同じ調子で受け答えをし、写真をもとめられれば断らなかった。そして切りのいいタイミングを見計らって、私を引っ張ってカオスから脱出したのだ。棒立ちして、ただみていただけの私とは大違いだ。  自己嫌悪がじわーんと体中に染みだすように広がってため息しかでない。不甲斐なさが身にしみる。
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