恋 人

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「自分は感情を素直に出せないところがあるんです。神谷さんが格ゲーをプレイをしているときの動画、どれをみてもポーカーフェイスだから、あなたももしかしたら、そういうタイプじゃないかと思ったんです」 「普段は違うよ。……まあ俺も昔は素直じゃなかったし、斜に構えていたところはあったかもしれない。でもそんなふうにしていると色々後悔するってわかったからね。年をとったぶんだけ学習したんだよ」    健史は瞳をしばたたかせたあと、軽くため息をついて笑った。 「ぜんぜん年をとっているようになんて見えませんけど」 「そりゃありがとう。ガキっぽいっていう意味なのかもしれないけど」 「まさか。そんな意味じゃないですよ。実際、神谷さんのいうとおりですから。……俺も悔やんでも悔やみきれないことがあるから。これからは後悔しないようにします。俺なりのやり方で」    なんの(てら)いもなく、神谷さんをまっすぐみつめる横顔。神谷さんもその視線を憶することなく受け止め、すっと目を細めた。 「いいんじゃないの。やりたいようにやればいい。俺も俺のやり方で悔いの残らないようにやっているだけだし、ね」    健史は口元をゆるめ楽しそうに微笑んだ。 「なるほどね。理名が惚れたのもわかります。俺も好きだわ。神谷さんみたいな人」   その言葉に、神谷さんは小さくわらいながら天を仰ぐ。 「俺がゲイなら浮かれるところだけど、生憎とストレートなんでね。男からコクられても嬉しくないな」    そういって軽く肩をすくめると、健史もそれは残念、とさらりと流して笑う。ふと会話が止まって、健史がわたしに目を向けた。  はっとするほど強い視線。こちらの内側まで射ぬいてしまいそうで、びくりと肩が震えた。そんな健史をみたことがなかった。視線がじわりと緩み、いつもどおり穏やかな笑顔になる。
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