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触れていたい人
一階のプリクラの機械とクレーンゲームがところ狭しと並ぶゾーン。女子高生やカップルで賑わっているそのエリアを早足で通り抜ける。
階段を上り、アーケードゲーム機がずらっと並ぶ二階エリア。一階の空気とはまるで違う。
一階が明るくカラフルなら、二階は薄暗いモノトーン。女性はほとんどいない。男たちが黙々とゲーム機に向き合っている。
「マスク、とらないんですか?」
横にいる神谷さんをちらりとみる。暖かいゲームセンターに入ったのに、マスクをつけたままだ。
「うん、いいや」
まわりを見渡してそう呟くと、薄暗い通路を慣れた様子でスタスタ歩いていく。
さっさとお札をコインに両替し、格闘ゲーム機のまえにたって、シートを指差した。
「じゃ、まず最初に高柳さん、やってみて」
このためにゲーセンまで来たにも関わらず、どうしていいかわからず困って飼い主を見上げた犬みたいに、神谷さんをみた。
「すいません、最初にいいますがわたし、メチャメチャ下手です」
神谷さんはマスクのなかで可笑しそうに、もふもふ笑った。
「そんなの言われなくてもわかってるよ。とりあえずトレモ、えーと、トレーニングモードってのがあって、一人で練習できるからやってみて」
「はあ……」
おずおずとシートに座る。神谷さんはわたしの背後から手を伸ばし、ゲーム機にさっとコインを入れ設定を素早く入力、スタート画面までお膳立てしてくれる。
ダウンジャケットを脱いだ神谷さんから、爽やかなオーデコロンの香りがした。それが鼻腔を掠めて、すぐ側にある彼の横顔を思わずみつめてしまう。
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