1310人が本棚に入れています
本棚に追加
/249ページ
恋した人
「神谷さん、今日はありがとうございました」
創作料理という名のなんでもありな、結構おいしい料理をだしてくれる居酒屋。そのカーテンで仕切られただけの小さな個室空間で、神谷さんとふたり、ビールジョッキを重ね合わせ乾杯しながら頭を下げた。
「はい、どーも。お疲れさま」
神谷さんはそういうと、きんきんに冷えたジョッキを傾けごくごく一気に飲んで、ああウマイといい笑顔をみせてくれたからちょっとほっとする。
「神谷さんが、ゲーセンに行きたがらなかったのも、しばらくマスクをつけていた理由もよくわかりました」
ビールに少しだけ口をつけたあと、おずおずと神谷さんをみたら、彼は面白そうに目を細めた。
「そう?」
恐縮しながらもう一度頭を下げた。
「さっきの光景をみていてようやく理解しました。軽率にゲーセンに誘ってしまい申し訳ありませんでした」
「ああ、平気。ゲーセンいくと、いつもあんな感じになるから予想はしてたし」
特に気にする風もなく、和風サラダをぽりぽりたべている。
実際手慣れた様子でファン対応していた神谷さんに対して、私といえば彼の広報担当なのに棒立ち。そもそも嫌がっていた神谷さんをゲーセンに誘うところからして、配慮が足りなさすぎる。
最初のコメントを投稿しよう!