恋した人

1/13
1310人が本棚に入れています
本棚に追加
/249ページ

恋した人

「神谷さん、今日はありがとうございました」  創作料理という名のなんでもありな、結構おいしい料理をだしてくれる居酒屋。そのカーテンで仕切られただけの小さな個室空間で、神谷さんとふたり、ビールジョッキを重ね合わせ乾杯しながら頭を下げた。 「はい、どーも。お疲れさま」  神谷さんはそういうと、きんきんに冷えたジョッキを傾けごくごく一気に飲んで、ああウマイといい笑顔をみせてくれたからちょっとほっとする。 「神谷さんが、ゲーセンに行きたがらなかったのも、しばらくマスクをつけていた理由もよくわかりました」  ビールに少しだけ口をつけたあと、おずおずと神谷さんをみたら、彼は面白そうに目を細めた。 「そう?」 恐縮しながらもう一度頭を下げた。 「さっきの光景をみていてようやく理解しました。軽率にゲーセンに誘ってしまい申し訳ありませんでした」 「ああ、平気。ゲーセンいくと、いつもあんな感じになるから予想はしてたし」  特に気にする風もなく、和風サラダをぽりぽりたべている。  実際手慣れた様子でファン対応していた神谷さんに対して、私といえば彼の広報担当なのに棒立ち。そもそも嫌がっていた神谷さんをゲーセンに誘うところからして、配慮が足りなさすぎる。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!