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いつものように、串カツを一本取って口に運ぶ。……何故だか、独りで食べる串カツは味気なかった。決して、店の味が落ちたわけじゃない。僕以外の常連客は、いつも通り美味しそうに食べている。
失って、初めて気が付いた。ホクトと一緒に食べる事。いつの間にかそれが一番の調味料になっていたんだ。
帰ろう。僕は串カツを一本食べただけで、お勘定を済ませようとした。
「あれ?もう帰っちゃうんですか」
もう二度と聞けないと思っていた女性の声が、耳に入ってきた。
振り返ると、走ってきたらしく、息を切らせたホクトがそこにいた。
「今日はボイストレーニングで、遅くなっちゃった」
「……ホクト、ちゃん?」
いつもの派手な化粧ではなく、ふれあい広場のステージで見た時と同じナチュラルメイクだった。
「私、改名したんですよ。《串田カツミ》って。先月貴方に言われた『本当に好きな事を隠すのは不自然だ』っていう事について色々考えて、事務所とも話し合って決めたんです」
「……そうだったんだ」
以前と同じように話してくれる彼女が、さっきまでの喪失感を一気に埋めてくれた。
「はい。それで、『串カツが大好きなアイドル』として路線変更することになったの。『ホクト』を応援してくれていた人たちも受け入れてくれて、今では《串カツ姫の串田カツミ》って、ネットでも話題になりつつあるんですよ。」
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