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幾度も交わした愛の言葉を呟きながら、二人はもどかしい思いで身につけていた物を脱ぎ捨て、ベッドの上で抱き合った。
偶然か必然か、一砥の両親も花衣の養父母も、愛し合いながら心通わすことなく、互いの本心を見つけられないままにその関係を終えた。
その事実を知るがゆえに、花衣も一砥も愛の脆さを理解していた。
互いの思いを言葉にする重要性と、心を伝える努力を怠らない、その必要性を。
だから一砥は、いつも宝物に触れるように花衣に触れて、彼女がこそばゆく思うほどにストレートに愛の言葉を口にする。
花衣もまた、一砥への感謝の気持ちを常に口にし、彼に抱かれる歓びを素直に外に現す。
愛しさを込めて互いを見つめ、誰に憚ることなく好意を素直に見せる。
不満があれば冷静に伝え、互いに分かり合えるよう努める。
そうやって一日一日を大切に重ねていき、やがて何が起きても揺るがない絆を作り上げていく。
敢えて口には出さなかったが、二人が目指す夫婦の形は同じだった。
それがどれほど幸福なことかまだ気づかないまま、彼らは互いを抱き締めて、幾度もその愛を確かめあった。
そこにこそ、二人が求める安寧の世界があると信じて。
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