最終話「あなたがいるから」

40/49
前へ
/49ページ
次へ
「今日はわざわざ、うちの会見のために集まっていただき、感謝致します。まあ大して話すことなどないが、上に書いてあるように、うちもいよいよモデル育成のみならず、ファッションを生み出す側にも進出しようと言うことで、まあ数年前から国内外の色んなアパレル系ブランドとも業務提携してきたわけですが。えー、皆さんご存知のように、儂の不肖の孫が五年前にいきなり結婚して勝手に他所の会社のCEOになんぞなったわけですが、その妻がなかなかに才能のある女性で、O-Cの生みの親である著名なファッションデザイナー、一色美里氏の愛弟子としてイタリアで修行を積み、ついに自分のブランドを作る運びとなり、それはぜひうちと契約してもらおうと頼んで、月光堂グループ初のアパレルブランド誕生の運びとなったわけです」  九十を越えてなお弁舌滑らかな剛造の喋りは止まらず、司会の男性と記者達がポカンと見守る中、剛造は一人勝手にマイクを掴んで話を続けた。 「そんなもん、孫の嫁への身内びいきじゃないかと批判もあるでしょうが、うちは身内びいきをしてでっかくなった会社ですからな、これは月光堂の伝統芸でもあるわけです」  ここで、わずかな失笑。 「しかし儂とて商売人の端くれ。金にならん勝負はいくら可愛い孫嫁だとて致しません。花衣さんの……ああ、孫の嫁の名前です。花衣さんはO-Cのデザイナーじゃった頃からのご贔屓さんも多くてですな。儂は名前しかよう知らん、アメリカのなんたらジェイとか言う歌手とか、えー、インスタグラムのフォロワーが百万人以上とかいう、いわゆるファッションアイコンな御婦人からの人気も高いそうでしてな。すでに日本国内でも、ファッションに敏感な若い女性達がショップのオープンを手ぐすねひいて待っておると言うじゃないですか。これは美味しい。儂の商売人としての第六感がピーンと反応しましたな。これは絶対に上手くいくぞと……」  漫談家のように流暢に話す剛蔵の演説は、ステージ脇に控える一砥や奏助の耳にもしっかり届いていた。     
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

482人が本棚に入れています
本棚に追加