最終話「あなたがいるから」

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 ダークスーツでフォーマルに正装した一砥はいつもよりきつい襟元に軽く指先を入れ、「やれやれ……」と呟いた。 「この調子じゃあ、主役の二人が登場するまで、あと三〇分は待たされるな……」  一砥と同じくダークスーツ姿の奏助は、クスクス笑いながら「まぁまぁ」といつもの口調でたしなめた。 「剛蔵お祖父ちゃんとしては色々と嬉しいんじゃないかな。一砥もフィオレンツァのCEOとして月光堂グループに戻ってきたし、花衣ちゃんと一緒に今後は日本で暮らすことになったし、何より半年後には曾孫も誕生するわけだしね」 「ああ……」  その点に関しては一砥としても喜ばしいことで、秋には父親になれると思うだけで、自然と口元はほころんだ。 「俺と亜利紗の挙式は十二月だから、産後三ヶ月の花衣ちゃんも出席大丈夫だよな? ちゃんと授乳やおしめ替えが出来る控室も用意するからさ」  先月、ようやく亜利紗と婚約した奏助は、ニコニコしながら気の早い台詞を口にした。  一砥は思わず苦笑しながら、「わかってるよ」と言った。 「何より実の妹の結婚式だ。花衣だって絶対に出席するつもりだし、俺も夫として協力する。万一子供が病気にでもなったら、俺が留守番したっていい」 「おー・偉い! 今からもう良夫賢父になる気満々だね!」 「なんだそのりょうふけんふって」     
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