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大勢のゲストと談笑する花衣を遠くから眺めていた一砥は、一人でテラスに出て頭上の淡い月を見上げた。
「一砥さん」
すると意外なことに、その後を追って花衣が一人でテラスに出て来た。
一砥はびっくりして、「主役がこんな所に来ていいのか」と言った。
花衣は体にフィットしたマーメイドスタイルのドレスの裾を優雅に捌きながら、ゆっくりと夫の隣に来てその腕にそっと凭れかかった。
「いいのよ。……ね、一人でこんな所で、何を考えていたの」
「……君に初めて会った時のことを、思い出していた」
「え?」
「奏助に花の木食堂に連れて行かれた帰り、……LuZの設立二十五周年パーティーのあった日だから、六月だな。君はTシャツとジーンズ、すっぴんで、長い髪をお下げに結っていた。両手に服の生地とワインを抱えて……荷物が重くて汗をかいていた」
「やだ……」
完璧なメイクを施した顔を赤く染め、花衣は恥ずかしそうに目を伏せた。
「あの頃はバイトと服作りに夢中で、オシャレなんてする暇なかったのよ……。それでデザイナー志望だなんて、あなたから見ればおかしな娘だと思ったでしょう?」
「いや。君の第一印象は……とても綺麗な歩き方をする子だなって思った」
「え……」
一砥は当時のことを思い出しながら、遠い目をして独り言のように言った。
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