最終話「あなたがいるから」

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「まず、素人とは思えない綺麗なウォーキングに目が止まった。それと、スッピンなのに肌が綺麗で可愛い顔立ちの子だなとも思った。素直そうで賢そうだなとも……」 「本当に?」  花衣は嬉しそうに頬を紅潮させ、一砥の顔を下から覗き込んだ。その瞳は少女のように輝いて、その目の煌めきはあの当時と変わらないなと一砥は思った。 「……俺にガールズバーのバイトを非難された時、君は、夢を叶えるためには金が必要なんだと言い切った。そして、話はそれだけか、自分は明日も忙しいからもう帰っていいかと言った。……その時なぜか俺は、君の力になりたいと思った。この子が夢に向かって進む、その姿を側で見てみたいと思ったんだ」 「初耳よ……」 「そうか? ……まあ、初めて言ったかもしれない」  一砥は手の中のシャンパングラスを軽く揺らし、金色の踊る泡を見つめた。 「もしかするとあの時にはもう、俺は君が好きだったのかもしれないな……」 「それも……初耳」  夫からの意外な告白に花衣は乙女のようにはにかんで、「だけど、私は完全に一目惚れだったのよ」と言った。 「スーツを隙なく着こなしたあなたは本当に素敵で、見惚れるほどハンサムで……一緒のベッドで寝ることになった時は、ドキドキと緊張でなかなか寝付けなかったもの」 「……初耳だ」  花衣は「じゃあおあいこね」とクスと笑った。     
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