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その日、お父さんはやけにわたしに優しくしてくれた。
朝起きたらすぐに「おはよう。今日もいい天気だね」と言ってきたり、「今日は休日だから、どこか買い物にでも行こうか」なんて……この数年間、ぜったいに私には言わなかった優しい言葉をたくさん並べてきた。
私が13歳を超えたぐらいから、お父さんはよく私に尽くしてくれた。
私は、お父さんの突然の変化に困惑した。
これで困惑せずにいられたら、それはもう人間じゃないと思う。
もう既に人らしい生活なんてしていなかった気がするけど。
それでもやっぱり、今のお父さんはおかしい。
それだけはハッキリとしていた。
……けど私は、お父さんの突然の変化すらも拒めなかった。
「……はい、行きます……」
「おいおい、なんでそんな他人行儀なんだ。俺たちは親子だろう?もっと普通の親子らしく話せよ、なぁ、ーーって。そういやお前、名前なんていったっけ」
そう言うとお父さんは笑った。
随分長いこと、お父さんは私の名前を呼ばなかったことに、私も今さら気がついた。
私はそんなお父さんに対して、名前を教える。
別に、名前を忘れたからといって、私がお父さんのことを強く言える訳じゃ無いし。
……それに。なんだかんだいいながらも、お父さんは私を学校に通わせてくれていた。だからここ最近は……いや、この数年間はあまり苦痛には感じなかった。
学校では友達もできたし、家に呼ぶことは出来なかったけど、それでも普通に学校生活を送ることができていた。
もう何人目かもわからない『新しいママ』が、何年か前ーー確かまだ私が8歳くらいの時に、「学校にちゃんと通わせてあげないと」と言ってくれたのだ。
それからお父さんは渋々といったふうに、私を学校に通わせてくれた。
だから私は少なくとも、今もこうして学校に通わせてくれているお父さんには……一応、感謝はしている。
だけど。やっぱり好きにはなれない。
お父さんは、私の薄れつつある記憶の、1番優しかったお母さんを殺している。
それに、他の優しかった新しいママたちにもお母さんと同じように暴力をふるっていたし、逆に私に対して冷たかった新しいママと一緒になってなぐってきたこともあった。
顔は殴らないようにーーそう言って笑うお父さんの表情は、今もなお笑い続けているときの表情と変わらなかった。
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