0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら、気がついたのね」
と、お姉さんがぼくのはな先をゆびでついた。ぼくはまた、ぷらぷらとゆれる。
どうなっているの、と体をうごかそうとしたけれど。思うようにはいかなかった。
ぷらぷら、ぷらぷら。
ぼくは、ゆれているだけ。
「まるで、きゅうりみたい。かわいいね」
お姉さんは、えみをふくんで首をかたむけた。
「ほら、見てごらん」
うながされ、たなを見る。目だけは、十分うごかせた。……たなにはつるがのびていて、つるにはぱっぱがついていた。
きゅうりのつる、きゅうりのはっぱだった。
うえたなえのうちの、三本ぐらいがのびているようだった。
そんなはずない。
そんなはずないよ。
うえたばかりなのに、あんなにせいちょうするはずがない。
「知らない人からものをもらってもいいんだっけ? わたしが名前を知っていたから、それであんしんしちゃった? ま、こっちはつごうがよかったんだけれど」
お姉さんがくっきりとわらった。
「わたしはね、きゅうりが大こうぶつなの。今直ぐきゅうりを食べたい気分なの。――あぁ、でもこやしが足りてない。ぜんぜん足りてない。これじゃ、花がつかない。きゅうりがならない」
と、お姉さんはいきをつく。
「もっと、こやしをあげなくちゃね? ねぇ。もっと、こやしになって? もっと、もっと」
そう言って、お姉さんがぼくのほおをなでた。お姉さんの手は、ひんやりしめっていた。
こやしというのは、ひりょうのことだ。ひりょうなら、なやから持って来ていたけれど。多分、そういうのじゃないんだ。
「ぜんぶ、わたしにまかせてくれればいいのよ。そう、ぜぇんぶ――えっ? ギャァッ」
ことばじり、お姉さんが声をはね上げた。ひめいだった。
「な、なにこれ。犬? やめてっ。イヤァァッ」
お姉さんの左足に犬がかじりついていた。それは、茶色のシバ犬で。うちでかっているタロウだった。
ウガヴゥルゥゥゥッ。
タロウは、聞いたことがないようなうなり声を上げている。
「イヤッ。やめてぇっ」
お姉さんは、タロウをふりほどくとぼくをつきとばしてにげ出した。
ぼくは、ぷらぷらくらくら。
目を回してしまう。
「いや、ごめんごめん」
ぼぅ、としていると父さんの声がかかった。
最初のコメントを投稿しよう!