きゅうりぷらぷら

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「あら、気がついたのね」  と、お姉さんがぼくのはな先をゆびでついた。ぼくはまた、ぷらぷらとゆれる。  どうなっているの、と体をうごかそうとしたけれど。思うようにはいかなかった。  ぷらぷら、ぷらぷら。  ぼくは、ゆれているだけ。 「まるで、きゅうりみたい。かわいいね」  お姉さんは、えみをふくんで首をかたむけた。 「ほら、見てごらん」  うながされ、たなを見る。目だけは、十分うごかせた。……たなにはつるがのびていて、つるにはぱっぱがついていた。  きゅうりのつる、きゅうりのはっぱだった。  うえたなえのうちの、三本ぐらいがのびているようだった。  そんなはずない。  そんなはずないよ。  うえたばかりなのに、あんなにせいちょうするはずがない。 「知らない人からものをもらってもいいんだっけ? わたしが名前を知っていたから、それであんしんしちゃった? ま、こっちはつごうがよかったんだけれど」  お姉さんがくっきりとわらった。 「わたしはね、きゅうりが大こうぶつなの。今直ぐきゅうりを食べたい気分なの。――あぁ、でもこやしが足りてない。ぜんぜん足りてない。これじゃ、花がつかない。きゅうりがならない」  と、お姉さんはいきをつく。 「もっと、こやしをあげなくちゃね? ねぇ。もっと、こやしになって? もっと、もっと」  そう言って、お姉さんがぼくのほおをなでた。お姉さんの手は、ひんやりしめっていた。  こやしというのは、ひりょうのことだ。ひりょうなら、なやから持って来ていたけれど。多分、そういうのじゃないんだ。 「ぜんぶ、わたしにまかせてくれればいいのよ。そう、ぜぇんぶ――えっ? ギャァッ」  ことばじり、お姉さんが声をはね上げた。ひめいだった。 「な、なにこれ。犬? やめてっ。イヤァァッ」  お姉さんの左足に犬がかじりついていた。それは、茶色のシバ犬で。うちでかっているタロウだった。  ウガヴゥルゥゥゥッ。  タロウは、聞いたことがないようなうなり声を上げている。 「イヤッ。やめてぇっ」  お姉さんは、タロウをふりほどくとぼくをつきとばしてにげ出した。  ぼくは、ぷらぷらくらくら。  目を回してしまう。 「いや、ごめんごめん」  ぼぅ、としていると父さんの声がかかった。
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