90人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「ん? ランチ始めたのか?」
「おや、そうみたいですね」
「ずっと前から夢莉さんが『ランチ』を始めてみては? と言ってくれていたので、その意見を受けて最近、パスタランチを始めたんですよ」
これがかなり好評で『ランチ』には色々なパスタが載っている。
その中には『特におすすめ』というシールが『ナポリタン』の横に貼られている。
「夢莉は本当に『ナポリタン』が好きだからなぁ。じゃあ、それで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「そういえば、今週末に会いに行くんですよね?」
「…………」
横から純がそう言うと、織田は顔をサーッと青くして頭を抱えた。どうやらようやく自分の元奥さんに会いに行く目途がたったらしい。
「よかったじゃないですか。ようやく夢莉さんたちの願いが叶いそうで」
「他人から見ればな。その当事者は、当日どんな顔で会いに行けばいいのか分からないんだよ。はぁ、どうしよ」
「だから頭を抱えているんですか? もとはと言えば自業自得じゃないですか。織田さんの」
「…………」
純の言っている事があまりにも正論だったのだろう。
食後の珈琲を優雅に飲んでいる純を横目に織田は「ぐうの音も出ない」という様子で、さらに頭を抱え、しまいにはカウンターに頭をぶつけた。
織田は、少しいかつい見た目をしていると思う。
その見た目故にドッシリと構えた頼れる人……と思われがちだが、その実。内面はかなり繊細で臆病だ。
それ故なのか、いざ自分が子供を持った時、守り切れる自信がなく、離婚してしまったのだろう。
多分、奥さんも織田の性格と仕事を理解した上で離婚に応じた。そして、今まで精一杯生きてきて、ちょっと弱気になっているのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!