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「あんまり気負わなくていいと思います」
「え?」
「大丈夫ですよ。夢莉さんもいらっしゃいますし、きっと大丈夫です」
「そう……だろうか」
「はい」
「そうだといいが……」
それでも気にかけてしまう辺り、織田らしい。
「さて、お待たせいたしました。ランチメニューの『ナポリタン』でございます」
今も頭を悩ませている織田の前に、出来上がったばかりの『ナポリタン』を置いた。
出来立ての『ナポリタン』を見ている表情は……やはり親子なのだろう。
最初に『ナポリタン』を見た夢莉と同じで表情には出さないようにはしているが、その目は……輝かせていた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「郵便でーす」
「あっ、はーい」
いつも郵便物はレジ横に置いていくが、今日は珍しくどうやら『書留』の郵便物があった様だ。
「じゃあ、コレで。はい」
「はい、ではこちらを。ありがとうございましたー」
郵便の方は軽く会釈すると、そのまま扉を閉め、立ち去った。他の郵便物は大したものはなかったが、今貰ったものはどうやら『手紙』の様だ。
「誰でしょう? あっ……」
手紙を裏にかえして書かれている名前でようやく賢治は送り主が分かった。
「…………」
コレは、やはりゆっくりと読むべきだろうと思い、賢治はカウンター席に腰かけた。
そして手紙を開けると、そこには『私は元気です。賢治さんは元気ですか? 短い間でしたがありがとうございました』という言葉から始まり、夢莉の近況報告がつづられていた。
どうやら夢莉は地元に戻った後、そこで喫茶店のウエイトレスのアルバイトを始めたらしく、ここでの経験もあってかアルバイトの方は順調の様だ。
ただ、やはり困っている人を見ると放っておけない質なのは変わらず、たまにトラブルに巻き込まれてしまうらしい。
しかし、それが全て悪い方向にいくというワケでもない様で……。
手紙にはこの間、重い荷物を持つお婆さん荷物持ちを手伝ったら高級茶葉をもらい、それをアルバイト先のマスターに渡したところ、かなり喜ばれたという事が書かれていた。
その茶葉の名前も手紙に書かれていたが、夢莉はなぜマスターがそこまで喜んでいたのか理解出来ていなかったようだ。
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