エピローグ

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「なるほど、夢莉さんにはその茶葉の価値が分からなかったようですね」   賢治の喫茶店は基本的に『珈琲』をメインに扱っている。  多少は私も紅茶の知識はあるものの、所詮は『多少』という程度。しかし、どうやら夢莉が今働いている喫茶店は『紅茶』に力を入れているらしい。  手紙にはさらに織田が訪れた時の様子も綴られており、病室に入った織田は奥さんと再会した瞬間。  何か文句の一つでも言ってやろうと待ち受けていた奥さんを前に大号泣してしまい、しばらく収拾がつかない状態になってしまったらしい。 「ふふ」  何となく、その状況が想像出来てしまい、思わず笑みがこぼれる。  そして、最後に『これからも父をよろしくお願いします』と締められていた。 「ん? コレは……」  封筒の中にまだ『何か』残っている事に気が付き、すぐに傾けるとそれはその時に撮ったであろう家族写真が入っていた。 「ふふ」  その写真をよく見ると、織田の顔には涙が流れ、奥さんと夢莉は少し苦笑いしているように見えた。 「全く、あれだけ会うのを拒んでいたのは『こんな姿を見られたくなかったから』と思われかねませんよ。これじゃ……」  賢治はその写真を見ながら、ふと先日会った『自爆しようとした彼』の事を思い出した。 『お兄さん、だぁれ?』  病院で賢治と対面し、開口一番。彼はそう呟いた。 『…………』  彼が眠っている間。  実は、この可能性もあるかも知れないと少しは考えていた。しかし、実際にそうなると……なかなかその事実を受け入れるのは辛い。  自爆から無事に生還した彼は『記憶喪失』になっていた。  しかも、どうやら精神が『幼稚化』してしまい、それどころか記憶もここに来た頃どころか小学生の頃ぐらいまで戻ってしまったらしい。  話を聞いたところによると、いつどのタイミングでこの人の記憶が戻るか分からない様だ。 『…………』  でも、これはこれで「人生のやり直し」と捉えられるのかも知れない。もっとも、彼はそれを望んでいたかは分からないが……。
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