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「思わず見とれてしまうほど、ナポリタンがお好きなんですね」 「あっ、えっと。ひっ、久しぶりで……その、つい」 「そうですか」 「はい。昔はよく食べたのですが」  あまりに優しい賢治の微笑みに、ついさっきまで「出来上がったナポリタンを前に見つめて微動だにしない」という自分の行動に、夢莉は少し……いや、かなり照れた。 「…………」  なんて事を思っていると、賢治は「よろしければこちらをお使いください」とカトラリーケースをナポリタンの隣に置いた。 「あっ、ありがとうございます」  のぞき込むと、カトラリーケースの中には当然フォークもあったが、なぜか『スプーン』も入っている。  多分、これは元々暇な時にストックを作っていて、常備フォークもスプーンも入った状態で準備されているだけで、必ずしも全てを使わなければいけないモノではないはずだ。 「…………」  そういえば、前にスプーンを使ってお上品に食べている人を見た事がある。  確かに、そうすればソースが跳ねる事もないし、その時に見た女性の姿が可憐に見えたから一度だけ使おうと試みた事もあったけど……。  夢莉にはどうにも向かないらしく、何となくやり方を真似しようとしたものの、どうしていいか分からず結局その時は普通にフォークだけ使って食べた。 「わっ、わざわざすみません。じゃっ、じゃあ。早速、いただきます」 「はい、どうぞ」  賢治の一言が、まるで母親に言われているように感じてしまい、夢莉はすこし気恥ずかしさを感じた。  でも、そんな事を考えていた事を隠すようは急いで両手を合わせて、目の前で美味しそうな湯気がたっている『ナポリタン』を口へと運んだ。
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