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◆  ◆  ◆  ◆  ◆  振り返ってみると、夢莉は『両親』と共に過ごした時間が普通の人より極端に少なかった。  ――思えば父さんは、根っからの『仕事人間』だった。  それこそ夢莉が生まれた時、父さんは仕事が忙しくて結局抜けられなくて病院に駆けつけることが出来ず、母さんは一人で生んだと聞いていた。  思い返してみると、夢莉は物心ついた頃から父さんと一緒に遊んだという記憶はほとんどない。  しかも小学校に上がってすぐに両親は離婚し、それ以降夢莉は『母子家庭』となった。  だけど、夢莉の母は夢莉が保育園にいる間は少し仕事をセーブして、寂しい思いをさせない様に頑張っていた。  それこそ、お金の面なんて本当に大変だったはずだ。  小学校の中学年になってからは、夢莉も出来る限り家事に参加して、主に洗濯や掃除をして、暇な時は極力母の手伝いをする様にしていた。  夢莉の知っている母はなんだかんだいつもパワフル。  そんな母のおかげで特に大きな病気をする事もなく、元気でなおかつ健康に育つことが出来た……と夢莉は感謝している。  そして、そんな母に育てられた事もあったか、お陰様で夢莉は無事に成人し、大学に入ってから始めた一人暮らしも現在進行形で順調そのものだった。  しかも、一人暮らしをしていたのは実家からはそんなに遠くなかった。  だから、たまに夢莉を心配して……なんて、話は私が大学に入って一年くらいまではよくあった。  でも、あれだけパワフルだった母は今、病院に入院している。  今まで頑張ってきた跳ね返りが今更になってきたのか、それとも夢莉が成人した事によって気が抜けたのかは分からない。  でも、母が入院してから夢莉は母のお見舞いにアルバイトや大学の講義のない時間の中、ちょっとした暇がある場合は出来る限り行っていた。  それでもやはり会う度に母の元気がなくなっている様な気がしてたまらなかった。
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