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「あっ、あの。そこまで深刻に考え込まなくても……いいですよ?」  ただ、ここまで真剣に考えてくれるとは思っていなかったので、むしろ夢莉の方が戸惑った。 「いえ、女性が一人。泊まる場所もなくお金もないというのは問題です」  賢治はそう言って、ずっと拭いていたグラスを置いた。 「いやっ、あの」 「それに……」  どうやら思っている以上に夢莉の置かれている状況は大変らしく、その証拠に賢治は少し怒っているようにも見える。 「行く当てがないという事は、ネットカフェに入るお金もましてやホテルに泊まるお金もないと言っている様なモノですよ」 「そっ、それは」  言われてみれば確かにそうだ。どうしてこの『事実』に気が付かなかったのだろう。  ここまで言われてようやく気が付くなんて、自分がいかに今の状況を楽観的に思っていたのか分かってしまい、途端になんだか夢莉は自分が情けなくなった。 「しかし、そう言ったところでどうしようもありません。そもそも、ここら辺でそういったホテルはおろかネットカフェやカラオケもありませんし」 「えっ。そう……なんですか?」  腕組みをしながら呟いた賢治の言葉に、夢莉は思わず心の言葉が出てしまった。  確かに適当にウロウロして『娯楽』と呼べそうな場所はパチンコくらいだとは思っていたけど、まさか「そもそも存在していない」ほどだったとは。  夢莉が住んでいる場所もけっこうな『田舎』だと思っていたが、さすがにネットカフェやカラオケはある。  それすらないという事は、つまりここはその更に上をいく『田舎』だ……と夢莉は失礼ながら思ってしまった。 「ふむ。そうなると、このままではあなたは宿無しになってしまうという事になってしまうという事ですね」 「そっ、そうですね」 「そうなると、ふむ……ここはやはりまず『住む場所』から、いえ。まずは『金銭面』をどうにかするところからでしょうか……」    そんな夢莉に気が付いていないのか、賢治は一人で何やらブツブツと呟いている。 「?」  その間もしばらく何かを考え込んでいる様に見えたので、そのまま何も言わず様子を見ていると。
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