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「やはり……そうですね」
「?」
「あの、もし。あなたがよろしければ……ですが」
「はい」
「ここで働きませんか?」
「……」
何やら一人で納得したように「うん」と言って突然目を見てきた様に感じ、思わず身構えた夢莉に、賢治は突然こんな提案をしてきた。
「え」
「幸い。ここにはたくさん空き部屋がありますし、もちろん各部屋に鍵もキチンと付いています」
「えっ、ちょっ」
「もちろん給料もお支払い致しますし、お食事も『まかない』という形でお出しますが……どうでしょう?」
「えぇっと?」
夢莉としては、今の話はただの『軽い相談』いや『雑談』のつもりだった。
確かに「あわよくば仕事先を紹介してくれるかも」なんて甘ったるい事も考えてしまってはいた。
でも、まさか……まさか、自分のお店を紹介するとは思ってもいなかった。
「どうでしょう、もちろん。無理にとはいいません。あなたのお父様が見つかるまででも、お金のめどがたつまででも私は全然かまいません」
普段からなじみのあるお店とは違う雰囲気の外見で最初は驚いたけど、このお店の雰囲気はいいと思っていた。
だから、この提案は願ってもない話。それに今の夢莉はお金の事はともかく、行く当てがない。
今日……いや、日付が変わってしまったから昨日はどうにかはなったが、こんな親切な人に出会えるという保証はどこにもない。
「…………」
ただ、賢治の話は本当にありがたかったのだが、この時の夢莉は分かりやすく困惑の表情見せて、なおかつ落ち着かない態度をとっていた。
その証拠に、ナポリタンを食べていたフォークが手から滑り落ち、床に落ちてしまったのだから――。
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