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「……」
今は空腹という事もあったが、元々そういった「人をバカにする態度」を取られるのは、たとえ相手が子供だったとしても普通の人は腹が立つ。
「まっ……っちなさーい!」
「うるっさいんだよ! ババア!」
お互い怒鳴り合いながら走っていたけど、多少は足の速さに自信がある夢莉でもいい限界がきた。
「はっ! 年の癖に無茶するからだ……」
「くっ!」
余裕綽々といった様子で犯人が曲がり角を曲がったのを夢莉は見送る事しか出来ない。
「はぁ……はぁ。誰がババアよ」
なんて言いつつも息も絶え絶えになっているこの状態では、ただの負け惜しみだ。
「はぁ……はぁ……」
しかし、想像以上に体力を消耗してしまい、近くにあった壁に手をついて息を整えていると……。
「いっ! ってー!!」
突然、さっきの犯人と思しき叫び声が聞こえた。
「えっ!?」
叫び声に慌てて現場に駆け付けると、そこには自転車から転げ落ちるように地面でゴロゴロと転がりながら犯人が涙目で自分の足をさすっている。
「……」
そして、その犯人の前にはどこのお店か分からない暖簾を片手に持った男性が仁王立ちで立っていた。
「えっ? えっ?」
現状が理解出来ない夢莉は、思わず犯人とその男性を交互に見比べた。
「うー」
しかも犯人はよほど痛かったらしく、足をおさえながら痛さを堪えているのか、地面に伏せている。
「すっ、すみません! あの、警察ですが」
「あ……」
「あの。これは一体どういう状況でしょうか?」
「あー、えっと」
ここでようやく警察の人が現れた。
「痛ぇよぉ」
「…………」
犯人はそう言って最終的には涙を流し、暖簾を持った男性はその様子を無言のまま見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後すぐに状況説明が行われ、最初に夢莉が被害者の女性に会った状況を説明した。
「――それで、あなたはその自転車を追いかけた」
「はい」
「そして追いかけてこの角を曲がった瞬間に犯人の叫び声が聞こえた」
「はい。途中で体力が尽きてしまって……」
「なるほど」
警察官はそこで話を一旦区切り、男性の方へと視線を向ける。
「それであなたは?」
「わっ、私も先ほどこちらの女性からその話を聞きまして……」
男性もどうやら私の後に女性から事情を聞き、その際にひったくりをした自転車を追いかけていったのが『女性』だったという事を知った。
「さすがに危ないと感じまして……」
そして、男性は先回りをし、ここで待ち伏せをした上で、曲がり角を曲がってきた犯人の弁慶の泣き所を思いっきり叩いた……という事だったらしい。
「はぁ、なるほど。分かりました。ちなみにお名前は?」
「私は『朝日奈賢治』と申します」
男性はそう警察官と話をしている。
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