ヘンリー

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ヘンリー

 薄らと、いたる所に被さる真っ白な雪。その上には、粉砂糖を上から塗しているかの様な、小さな雪が、パラパラと降り続いていた。本格的な冬が始まっていたイギリス。都市ロンドンでは、あちこちでクリスマスのイルミネーションが見られ始める中、人里離れた田舎町に存在する、ある名も無き教会。そこには華やかさとは程遠い、不気味とも言える静けさだけが漂っていた。  イギリス南部に位置する町から、少し離れた場所に建つこの小さな教会。古い赤煉瓦で出来ており、建物の外壁は其処等じゅうヒビだらけで、一度も手入れをされた様子はなかった。時折吹き付ける潮風のせいか、むき出しのパイプは錆付き、初めて目にする者には廃墟にしか見えないだろう。  しかし、こんな寂れた教会にも、人は住んでいる。れっきとした教会の主、つまりは牧師だ。牧師は教会の地下。薄暗く、周りは冷たいコンクリートで囲まれた、八畳程のまるで牢獄の中の様な所に、ひっそりと潜んでいた。人から隠れる為ではなく、己を隠す為でもなく。特別な来客の為に、人目に付かぬ様、そして真実の答えを求める者だけが辿り着ける様に、静かに地下に潜んでいた。  「さて、少年。なにが知りたい?」     
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