ヘンリー

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 黒いボサボサの髪を掻き毟りながら、一人の中年位の男が言った。その声は低くも高くもなく、滑らかで、穏やかにも感じられる、静かな声だった。髪は肩位まで伸びており、寝癖で毛先があちこちへと向かっている。真黒な牧師の服に袖を通し、首からは大きな銀色の十字架のネックレスがぶら下っていた。鏡台の上に腰かけ、男の背後には十字架に釘付けにされた、大きなイエス・キリストの像が置かれている。それ以外の物は何も無かった。傍らに小さなストーブと蝋燭が置いてあるだけだ。  「ここに来る者は、皆何かを知りたい者だ。そう・・・通常でも裏でも中々知り得ない、答えだ。」  男は裸足の足をブラブラとさせながら、右手に置いてあった煙草を手にした。一本の煙草を銜え、ライターで火を点けると、思い切り深く煙を肺の中へと吸い込んだ。そしてゆっくりと煙を吐き出す。  「それで?君は何が知りたい?少年。」  この男の他に、もう一人。教会の地下に居たのは、金色の髪をした美しい少年であった。男はその少年に問い掛ける。少年は深い海の様な青い瞳をしており、凛々しい喪服姿で男の目の前に立っていた。しかし、その顔は険しく、まるで男を睨みつけているかの様だ。  「少年じゃない。ヘンリーだ。それに僕はもう十六歳だ。」  綺麗な顔とは裏腹に、強い口調で鋭く発する。ヘンリーと名乗る少年は、男が吸う煙草をじっと見つめると、冷めた口調で言った。  「牧師の癖に煙草を吸うのか。」  ヘンリーの言葉に、男は軽く鼻で笑った。  「違うよ。牧師だって煙草を吸うんだ。やっぱり君はまだ少年だねぇ。」  この男が教会の主、牧師だ。牧師の言葉に、ヘンリーの顔は更に険しくなる。そんなヘンリーの事等気にもせず、牧師は淡々と話出した。     
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