ヘンリー

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 「人間は失敗に始まり、失敗に終わっている。イカロスは空を飛ぼうと、調子に乗って太陽に近づきすぎ、落っこちた。パンドーラーはせっかくの贈り物を、誘惑に負けて開けてしまった。あぁ・・・これは知っているかい?サルモネウスは偉そうにしたいが為に、神様の名前を勝手に使って、罰せられちゃったんだよう。有名だよね?全部ゼウスが絡んでるって事。」  なんの反応も示さず、無言で聞くヘンリーとは裏腹に、牧師は楽しそうに話しを続けた。  「まぁさ、知恵の実を食べてしまった時点で、人間は終了している訳なんだよ。でもさ、面白い事に、ソロモン七十二の柱ってあるだろう?悪魔の。あれってさ、シェム・ハ=メフォラシュの七十二の神名と天使に対応してるんだって。結局神様も悪魔も、同じって事だよねえ。じゃ、人間は?人間なんて、初めから彼等のただの玩具だったって事だよ。」  ケラケラと可笑しそうに一人笑う牧師に、ヘンリーは更に眉間にシワを寄せた。  「それでも牧師かよ。」  呟く様に言うヘンリーに、牧師はケラケラと笑うのを止め、彼の目をじっと見つめると、口元をニヤリとさせた。  「あぁ、牧師だよ。だから一応、神様のお話をしたんじゃないか。牧師らしいだろう?」  皮肉にも聞こえる牧師の言葉に腹を立てたのか、ヘンリーは牧師に背中を向け、地下室の小さい入り口と歩き出した。地下室から出て行こうとするヘンリーを、牧師はなにも言わず、ただじっと彼を見つめていた。     
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