ヘンリー

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 牧師は煙草を無雑作に鏡台の上に押し付け、火を消すと、人差し指を掲げた。ヘンリーはその指を不思議そうに見つめた。  「不死と不老は、これまた残念な事にワンセットなんだよ。まぁ・・・その理由はすぐに分かるけど・・・。君の場合その歳で生き続ける事になるんだけど、これは大丈夫?」  今度は少し考えた様子で、ヘンリーは一度視線を足元に下げた。もう一度視線を上げ、牧師の顔を再び見た時、彼は覚悟を決めたかの様な顔で言う。  「問題無い・・・と思う。いやっ。問題無い。」  少し言葉を濁しながらも、自らで決めた決断を告げた。まるで己にも言い聞かすかの様に。余程の信念でもあるのかと思った牧師は、鏡台から立ち上がり、ヘンリーの近くへと歩み寄った。彼の目の前まで行くと、顔を近づけ、今にも唇と唇が触れてしまいそうな距離まで近づける。そして宝石の様な深い青色の瞳を、じっと覗き込んだ。目の真正面に映り込む牧師の瞳は、薄茶色をしており、その瞳の中にはヘンリーの姿が映る。  しばらくすると牧師は顔を引き、ゆっくりとまた鏡台の上へと戻った。邪魔そうに長いガウンを持ち上げながら、右足を大きく上げ、足を組む。  「いいだろう、教えてあげるよ。」  牧師の言葉に、ヘンリーは微かに嬉しそうな顔をした。     
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